
事業用ビルの賃貸借契約が、賃借人の更新拒絶によって終了しても、賃貸人が信義則上その終了を(再)転借人に対抗することができないとされた事例があります。(最一小H14・3・28判決 判タ1094-111)
転貸借は、その前提として原賃貸借契約に基づく原賃借権があるものですから、原賃借権が消滅したときは、原則として、転貸借は覆滅します。但し、判例は、原賃貸借契約が合意解約されたときは、賃貸人は、信義則上、原賃貸借契約の解約の効力を、転借人に対抗できないとしています(最一小S37・2・1、最三小S62・3・24)。
本件では、賃借人からの更新拒絶があった例であって、原賃貸借契約は合意解約されたわけではありません。このことからすれば、原則どおり、原賃貸借契約が終了した以上は、賃貸人は、原賃貸借の終了を、転借人に対抗することができる結論になりそうです。
この点に関し、裁判所は、まず、本件は、賃貸人が、建物の建築、賃貸、管理に必要な知識、経験、資力を有する原賃借人と共同して事業用ビルの賃貸による収益を得る目的の下に、原賃借人から建設協力金の拠出を得て本件ビルを建築し、その全体を一括して原賃借人に貸し渡したものであって、原賃貸借は、原賃借人が賃貸人の承諾を得て本件ビルの各室を第三者に店舗又は事務所として転貸することを当初から予定して締結されたものであり、賃貸人による転貸承諾は、原賃借人においてすることを予定された賃貸物件の使用を、転借人が原賃借人に代わってすることを容認する趣旨のものではなく、自らはそもそも使用することを予定していない原賃借人に、その知識、経験等を活用して本件ビルを第三者に転貸し収益を上げさせるとともに、原賃貸人も、各室を個別に賃貸することに伴う煩わしさを免れ、かつ、原賃借人から安定的に賃料収入を得るためにされたものというべきであるなどとして、原賃貸借の実態や締結の経緯・意図について言及しています。
この上で、裁判所は、このような事実関係の下においては、本件再転貸借は、原賃貸借の存在を前提とするものであるが、原賃貸借に際し予定され、前記のような趣旨・目的を達成するために行われたものであって、原賃貸人は、本件再転貸借の締結に加工し、再転借人による本件転貸部分の占有の原因を作出したものというべきであるから、原賃借人が更新拒絶の通知をして原賃貸借が期間満了により終了しても、賃貸人は、信義則上、原賃貸借の終了をもって再転借人に対抗することはできず、再転借人は、再転貸借に基づく本件転貸部分の使用収益を継続することができると解すべきであると判断しました。
本件は、建築協力融資金方式で建築された一棟貸しの建物に関する事例で、サブリースに関するものと整理されることがあります。事案の判断ですから、事案によっては異なる結論となる場合もあるものと考えられます。
しかしながら、サブリースで不動産を運用しようとする場合には、状況次第で、直接エンドユーザーとの間で契約関係が発生することを余儀なくされる可能性があることを認識し、これに備えておく必要がありそうです。