1.第三者のためにする契約
不動産売買の際に用いられる契約態様の一つに、第三者のためにする契約というものがあります。界隈では「三為(さんため)」と通称されています。直接移転取引という言い方もあります。
三為契約は、初めから転売が想定されているときや、開発(地上げ)のときなどに、取引形態の一つとして利用されることがあります。うまく機能させれば有意義な取引態様のひとつであると思います。ですが、反面、問題点もあり注意が必要です。まずは三為契約の概要から。
A(元の所有者) → B(中間者) → C(最終取得者)
三為契約については、多くの場合、A(元の所有者)→B(中間者)に対する第1売買契約と、B(中間者)→C(最終取得者)に対する第2売買契約とが締結されます(全体として第三者のためにする契約なので、BC間を売買契約と呼ぶのは本来不適当ですが、便宜上BC間も売買契約と呼びます。実際上、契約書は売買契約の体裁で作成されます。)。そして、第1売買と第2売買は通常同時に決済されます(第1売買を先に決済することも可能ではあります。)。
典型的には、Bは宅建業者です。この記事も、Bが宅建業者である前提で書いています。
この場合において、要件を満たすときは、登記上、A→Cというように、Bを省略した直接移転登記をすることができます。これによって、登記手続費用や不動産取得税や登録免許税を節約することができ、また、Bにおける譲渡益課税(もしあれば)を回避することができます。
契約書の体裁上、第1売買契約書と、第2売買契約書という2つの売買契約が現れますが、三為契約においては、物権変動は、A→Cの1回です。目的不動産の所有権は、Bをワンタッチしません。このように、第2売買は、売買契約の体裁を取っていても、BからCへの所有権移転を想定しません。所有権がBをワンタッチすると考えるなら、登記と実体が合わないことになるので、A→C登記は無効になります(あるいは、A→Cの登記手続申請は、実体を反映しないので却下されます。)。所有権がBをワンタッチするなら、登記上、A→B→Cとやらなければなりません。
第三者のためにする契約では、A(受益者に対して給付義務を負う者)を諾約者、Bを要約者、Cを受益者と呼び、AB間を補償関係、BC間を対価関係と呼びます。民法では、537条、538条、539条に、その要件効果について規定されています。
2.他人物売買の禁止の例外としての位置づけ(宅建業法)
三為契約では、第2売買は売買契約ではありません(第2売買を売買契約と考えると、A→Cの中間省略登記は、登記と実体が合っていないことになるので、できません。)。ですが、売買契約の体裁が採用されるためかどうか分かりませんが、宅建業法では、第2売買に宅建業法の適用があることが前提とされています(但し、実際には、第2売買が第1売買に先行する違法なケースがあるので、売買として規制する実益はあると思います。)。
というのは、三為契約では、第2売買は、Bが所有権を取得していない(第1売買が決済されていない)段階で締結されることを想定しますが、これは、他人物売買にあたります。民法では他人物売買は違法ではありませんが、宅建業法では、宅建業者は他人物売買をしてはいけないことになっています(宅建業法33条の2)。
(自己の所有に属しない宅地又は建物の売買契約締結の制限)
第三十三条の二 宅地建物取引業者は、自己の所有に属しない宅地又は建物について、自ら売主となる売買契約(予約を含む。)を締結してはならない。ただし、次の各号のいずれかに該当する場合は、この限りでない。
一 宅地建物取引業者が当該宅地又は建物を取得する契約(予約を含み、その効力の発生が条件に係るものを除く。)を締結しているときその他宅地建物取引業者が当該宅地又は建物を取得できることが明らかな場合で国土交通省令・内閣府令で定めるとき。(2号省略)
宅建業者Bが、第1売買を締結していない状態で、第2売買契約だけを先に締結すると、宅建業法33条の2本文に違反しているということになります。この状況では、まだ第三者のためにする契約になっておらず、ただ単に他人物売買である第2売買だけができた、ということになるので、宅建業法違反です。
これでは宅建業法のために三為契約はできないことになってしまいますので、三為契約を宅建業法上適法に行うことができるように、宅建業法上、他人物売買の例外が定められています。それが、上記の引用部分にある宅建業法33条の2第1号で、具体的要件は国土交通省令である宅建業法施行規則15条の6第4号に定められています。
(法第三十三条の二第一号の国土交通省令・内閣府令で定めるとき)
第十五条の六 法第三十三条の二第一号の国土交通省令・内閣府令で定めるときは、次に掲げるとおりとする。
(1号から3号省略)
四 当該宅地又は建物について、当該宅地建物取引業者が買主となる売買契約その他の契約であつて当該宅地又は建物の所有権を当該宅地建物取引業者が指定する者(当該宅地建物取引業者を含む場合に限る。)に移転することを約するものを締結しているとき。
これによると、①宅地建物取引業者が買主となる売買契約その他の契約が締結されていて、②その契約が、所有権を当該宅地建物取引業者が指定する者(当該宅地建物取引業者を含む場合に限る。)に移転することを約するものであるときは、他人物売買ができる、ということになっています。
このため、三為契約を利用しようとするときは、第1売買において、所有権の取得者を単純に第三者に指定できるとするだけではNGで、第三者又は自分(B)に移転することを可能とする内容のものにしなければなりません。
宅建業法が求めているものは、ここまでとなります。
3.第三者のためにする契約(AB間/補償関係)
このA→B→Cの取引では、2つの売買契約のままでは、単なる転売(2つの物権変動)ですから、登記も実体に合わせてA→B、B→Cの2回行わなければならないのですが、これを第三者のためにする契約に加工することによって、A→Cという直接移転取引に改めます。これは、第1売買、第2売買それぞれに特約を付する方法で行われます。
第1売買では、Cに直接所有権を移転することが可能になるように、特約を設けます。これは、
①「本契約は第三者のためにする特約を付するものとし、Bが指定する第三者(B自らを指定する場合を含む。)に対して、直接所有権が移転する。」
とやります。「B自らを指定する場合を含む。」という部分は、前記のとおり宅建業法上違法な他人物売買とならないために必要となる文言です。
この上で、第1売買の代金が支払われた時点で所有権がBに移転するといけませんし、第三者のためにする契約にするにはCによる受益の意思表示が必要です。このため、所有権移転時期については、
②「Bが第三者を指定すること、第三者が受益の意思表示をすること、BがAに売買代金を支払うことの3つを条件として、所有権はAから第三者に直接移転する。」
と明示します。そして、通常、
③「Bが売買代金を支払っても、他の条件が成就するまでは所有権は移転しない。」
とやります。
ここまでが第1売買を第三者のためにする契約にするために必要な特約で、後は、取引の便宜として、第三者Cからの受益の意思表示をAではなくBが受けることができるようにするために、
④「AはBに対し、第三者がAに対してする受益の意思表示の受領権限を与える。」
とやります。以上①②③④が特約に含まれていれば、第1売買はオッケーです。④は必要ではありませんが通常ついています。この4つが実質的に含まれていればよいので、実際の書きぶりはバリエーションがあってよいです。
4.第三者のためにする契約(BC間/対価関係)
第2売買のほうは、第1売買と平仄を合わせるために次のような特約を設けます。
⑤「Bは、Bが現所有者と締結済みの第三者のためにする特約付き売買契約に基づき、現所有者からCに直接所有権を移転させることによりその義務を履行する。」
⑥「本物件の所有権は、Cが売買代金の全額を支払い、かつ、Bが現所有者と締結済みの第三者のためにする特約付き売買契約に基づきCが現所有者に対して所有権移転を受ける意思表示をしたときに、現所有者からCに直接移転する。」
この⑤⑥が特約に含まれていれば、第2売買の特約としてはオッケーで、全体として①②③④⑤⑥が揃っていれば、第三者のためにする契約として十分な内容となり、A→Cという直接登記が可能になります。②と⑥について、所有権移転時期に関する文言は、ぴったり一致はしていないですが、実務的には第1売買と第2売買は同時に決済されることが通常ですので、ここでトラブルが発生する例は通常ありません。私も体験したことはありません。また、体験的には、①から⑥がすべてきっちり書かれているとも限らないです(次項の登記原因証明情報の体裁が整っていれば、直接移転取引の登記はできてしまう実務がありそうです。)。
5.登記原因証明情報
4.までが第三者のためにする契約を使用した中間省略登記をするための実体法的な整理となります。登記に必要な登記原因証明情報上、登記原因となる事実又は法律行為において、次のように記述されることが通常です。このとおりでなければならないということではありませんが、このような情報を含む記述がされます。(参考:平成18年12月22日法務省民二第2878号民事第二課長回答「第三者のためににする売買契約の売主から当該第三者への直接の所有権の移転の登記の申請又は買主の地位を譲渡した場合における売主から買主の地位の譲受人への直接の所有権の移転の登記の申請の可否について(回答)」)
(1)売買契約 Aは、Bとの間で、●年●月●日、その所有する上記不動産(以下「本件不動産」という。)を売り渡す旨の契約を締結した。
(2)第三者のためにする契約及び所有権移転時期の特約 (1)の売買契約には、「Bは、売買代金全額の支払いまでに本件不動産の所有権の移転先となる者を指名するものとし、Aは、本件不動産の所有権をBの指定する者に対しBの指定及び売買代金全額の支払いを条件として直接移転することとする。」旨の所有権の移転先及び移転時期に関する特約が付されている。
(3)所有権の移転先の指定 ●年●月●日、Bは、本件不動産の所有権の移転先としてCを指定した。
(4)受益の意思表示 ●年●月●日、CはAに対し、本件不動産の所有権の移転を受ける旨の意思表示をした。
(5)AB間の代金支払い ●年●月●日、Bは、Aに対し、(1)の売買代金全額を支払い、Aはこれを受領した。
(6)所有権の移転 よって、本件不動産の所有権は、●年●月●日、AからCに移転した。
この体裁では、第2売買(BC間契約)の代金が決済されていることについての記述はありませんが、ギリギリ考えるなら、第三者のためにする契約としては、諾約者が受益者に対して直接給付義務を負うということになるという点にあるので、第2売買の決済は無用といえるかもしれません。といいますか、本来は、所有権移転の効果を生じさせるために必要となる要件として、第1売買、第2売買の契約書にどのように記載があるかによって、登記原因証明情報に記載すべき事項も変わってくる、ということになろうかと思います(所有権移転の要件として第2売買の決済が必要とされていれば、その記載が必要となるはずです。実際にそのようになっている売買契約、登記原因証明情報も、もちろんあります。)。
ついでにいうと、第1売買より第2売買のほうが先に締結されており、登記原因証明情報の記載上、この点に宅建業法違反があることが明らかであるのに、直接移転登記が通ってしまっている例を見たことがあります。法務局は、宅建業法違反を気にしていないか見落としているか、あるいは、この点についての宅建業法違反は、実体法上売買契約の効力に影響を与えないと考えている可能性があります。
このへんまではテクニカルな問題で、続きでは、三為契約に関して起こりそうなトラブル・リスクについて話を進めます。