[ 承前 ]
6.典型的なトラブル1 対価関係側(BC間)で起きること
先(2.)でみたとおり、宅建業者Bが、第1売買を締結していない状態で第2売買を締結すると、宅建業法33条の2本文に違反しているということになります。このため、Bは、第2売買の契約締結より前に、又は、遅くとも同時に、第1売買を締結しておかなければなりません。
このため(ということだけでもありませんが)、実務的には、第1売買を締結するときに、契約締結日から決済日までの間に期間が設けられ、その期間の間に、Bが買主となるCを探してくる、という進行になります。要するに、BがAから時間をもらって、買ってくれるCを探す、という展開です。
このことから、Bが決済日までの間にCを見つけきれないと、B自らが決済せざるを得なくなったり、Bの資金不足で決済ができる見込みが立たず、決済日の延長が課題になったり、といったトラブルが発生することがあります。
ただこういうのは、Bがヘタを打っているわけですから、Bが腹をくくるしかありません。ここの腹がくくれないのに三為契約に手を出す宅建業者Bは、レベルが低いというしかありません。宅建業者Bには、ここで一回自分で引き取る腹をくくれないなら三為契約に手を出すなよ、と言いたい。
あるいは、悪意のあるBが、できるだけたくさんのお金を抜くために、Cに融資を付けることになる金融機関(それは通常、宅建業者Bの紹介でCに融資することになります。)に対して、レントロールなどの資料をうんぬんかんぬんみたいなことが起こります。この場合には、物件を高値掴みさせられるCが被害者だと思いますが、金融機関との関係ではCも加害者(の共犯者)みたいになることがあります。
こういう宅建業者Bは程度が悪いというしかありません。ひところ、スルガスキームとか流行しましたが、そんな感じです。Bと金融機関の担当者が意思を通じていたら、救いがありません。
備忘のために書いておくと、三為契約で、A→B→C→Dというのも接したことがあります。BとCが宅建業者です。中を抜くことを人数が増えれば、Dが損することになりがちだと思います。
7.典型的なトラブル2 補償関係側(AB間)で起きること
そもそものこととしては、A→Cという移転登記を実現しようとするなら、本来であれば売主A→買主C、とする1つの売買契約があって、これを、宅建業者Bが仲介して、Bは仲介手数料を得る、ということで完結するわけです。代金を仮に5000万円とすると、Bが受け取る仲介手数料は、売買代金の3%+6万円とすると、156万円+消費税(171万6000円)となります。
ここでです。
Aがスレていない素人である場合、Bは、「いやー、この物件は、4000万円ぐらいでしか売れないッスわ。しかも時間もかかりそうです。いつまでも待っていても仕方がないので私が買い取ってあげましょう。」とか言って、適当にAを丸め込んでしまうことに成功したとします。
この場合、三為契約を使わないでも、A→B売買(4000万円)、B→C売買(5000万円)とやれば、Bは、1000万円抜くことができます。ですが、この場合は、登記が2回になりますから、登記手続費用がかかりますし、Bに不動産取得税や登録免許税が必要になります。また、Cに売り抜けると、1000万円には、譲渡所得税もかかります。
ですが、ここでA→B→Cという三為契約を使うと、物件変動はA→Cの1回だけなので、Bは、登記手続費用も不動産取得税も登録免許税も負担することなく、譲渡所得税もかかることなく、1000万円を取得することができます。
このようにして、Bは、A→C売買を仲介でやれば仲介手数料として171万6000円を得られるところ、適当にAを丸め込むことに成功すると、1000万円を得ることができます。
Aの損失の下に、Bが得をしていますね。
この場合、B→Cの売買代金が5000万円であることは、Bからも、Cからも、登記を担当する司法書士からも、Aに知らされなければ、Aは何が起こっているのかを認識することができません。
もちろん、BもCも司法書士も、B→Cの売買代金が5000万円であることは知っています。Cは、さしあたってさておくとしても、Bも司法書士も、B→Cの売買代金が5000万円であることを、Aには告げません。
これが後でAにバレると、1000万円返せよ、という話になります。当たり前ですね。
8.裁判例(福岡高裁H24.3.13判タ1383ー234)
典型的なトラブル2に関して、こんなことが許されるのかというと、もちろん許されません。裁判例では、2100万円で売れる物件を1500万円で売却させて同日決済し、Bが600万円を抜いた例で、裁判所は、次のように判示して、Aに対して不法行為が成立するとしました。
「宅建業法46条が宅建業者による代理又は媒介における報酬について規制しているところ,これは一般大衆を保護する趣旨をも含んでおり、これを超える契約部分は無効であること(最高裁昭和44年(オ)第364号同45年2月26日第一小法廷判決・民集24巻2号104頁参照)及び被控訴人らは宅建業法31条1項により信義誠実義務を負うこと(なお,その趣旨及び目的に鑑み,同項の「取引の関係者」には,宅建業者との契約当事者のみならず,本件のように将来宅建業者との契約締結を予定する者も含まれると解するのが相当である。)からすれば,宅建業者が,その顧客と媒介契約によらずに売買契約により不動産取引を行うためには,当該売買契約についての宅建業者とその顧客との合意のみならず,媒介契約によらずに売買契約によるべき合理的根拠を具備する必要があり,これを具備しない場合には,宅建業者は,売買契約による取引ではなく,媒介契約による取引に止めるべき義務があるものと解するのが相当である。」
まあそりゃそうですよね。媒介契約によらずに売買契約によるべき合理的根拠がなければ、Aを騙して中を抜いているだけですから、アウトです。
(但し、この事案でも同日決済しているので三為契約だと思うのですが、公刊された事案だけからは、三為契約が使用されているか、2つの売買になっているかは明らかではありません。)
これは、後で登記を見ると、Aでも気が付く可能性はありますが、Aが不動産取引の素人ですと、バレない可能性がまあまああります。登記手続関連書類の作成過程で異変に気付く可能性もあると思いますが、期待しにくいと思います。(=気づかないまま騙されているAは、世上まあまあいると思います。)。
どうしてかというと、Aは素人ですから。入口で、依頼する宅建業者や司法書士を信用しています。専門的な知識や経験を信用して依頼するAは、まさかその宅建業者に自分が騙されているとか、司法書士が取引の成否に影響を及ぼす大事なことを教えてくれていないとは通常思いません。
資格を有する専門職である宅建業者や司法書士から、そんなもんだよと信用させられてしまうと、なお疑問に思ったり、取引を思いとどまったりすることは難しいのが通常だと思いです。これはAの責任ではなくて、宅建業者や司法書士が、その専門的知識や経験を利用して、Aを騙しているのです。
これは、B(場合によってはCも)と、登記を担当した司法書士が口裏を合わせると、なかなかAの損害立証が難しくなる、という意味で、被害の回復も容易でない場合があります。第2売買(B→C)の契約書は、Aが知ることは通常できませんし、登記原因証明情報には、売買代金まで記載されませんので、まず被害額を知ることが簡単ではないです。