(承前)
5.固定資産税評価額
前の投稿で書いたとおり、相続税の財産評価に関し、家屋については固定資産税評価額によることとされています(評価通達89)。固定資産税評価額というのは、地方税法381条に記載されている台帳登録価格のことです。いま話題にしているのは家屋で、家屋に関する条文は、地方税法381条3項です。
「(固定資産課税台帳の登録事項)
第三百八十一条
3 市町村長は、家屋課税台帳に、総務省令で定めるところにより、登記簿に登記されている家屋について不動産登記法第二十七条第三号及び第四十四条第一項各号に掲げる登記事項、所有権の登記名義人の住所及び氏名又は名称並びに当該家屋の基準年度の価格又は比準価格(第三百四十三条第二項後段、第四項及び第五項の場合には、これらの規定により固定資産税を課されることとなる者の住所及び氏名又は名称並びにその基準年度の価格又は比準価格)を登録しなければならない。」
「基準年度」というのは、固定資産税税評価額は原則として3年ごとに評価替えを行うのですが、その評価替えの年を意味しています。現時点を基準にしていうと、次の基準年度(=評価替え)は、令和6年(2024年)1月1日です。
それで、「基準年度の価格」が、固定資産税(と都市計画税)の課税標準になっています。地方税法349条1項。
「(土地又は家屋に対して課する固定資産税の課税標準)
第三百四十九条 基準年度に係る賦課期日に所在する土地又は家屋(以下「基準年度の土地又は家屋」という。)に対して課する基準年度の固定資産税の課税標準は、当該土地又は家屋の基準年度に係る賦課期日における価格(以下「基準年度の価格」という。)で土地課税台帳若しくは土地補充課税台帳(以下「土地課税台帳等」という。)又は家屋課税台帳若しくは家屋補充課税台帳(以下「家屋課税台帳等」という。)に登録されたものとする。」
で、ここにいう「価格」については定義があって、それによると次のようになっています。地方税法341条5号。
「(固定資産税に関する用語の意義)
第三百四十一条 固定資産税について、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
五 価格 適正な時価をいう。」
固定資産税の課税標準は、「適正な時価」なのです。相続税における財産の評価も「時価」でした(相続税法22条)。
6.固定資産評価基準
固定資産税の課税標準が適正な時価であるとして、ではそれをどうやって求めるのか、という問題になりますが、ここは法律があります。地方税法403条、388条。
「(固定資産の評価に関する事務に従事する市町村の職員の任務)
第四百三条 市町村長は、第三百八十九条又は第七百四十三条の規定によつて道府県知事又は総務大臣が固定資産を評価する場合を除く外、第三百八十八条第一項の固定資産評価基準によつて、固定資産の価格を決定しなければならない。」
「(固定資産税に係る総務大臣の任務)
第三百八十八条 総務大臣は、固定資産の評価の基準並びに評価の実施の方法及び手続(以下「固定資産評価基準」という。)を定め、これを告示しなければならない。この場合において、固定資産評価基準には、その細目に関する事項について道府県知事が定めなければならない旨を定めることができる。」
市町村長は「固定資産評価基準」によって固定資産の「価格」(=「適正な時価」)を決定しなければならず、「固定資産評価基準」は総務大臣が告示で定める、という仕掛けになっています。
7.判例あります
では、固定資産評価基準によって算定される金額は、本当に時価なんですかね、という問題が出てくるのですが、この点については、最高裁判例があります(最2小判H15.7.18)(今回引用しませんが、土地について、最1小判H15.6.26というのもあります。こちらも重要です。)。
「伊達市長は,本件建物について評価基準に定める総合比準評価の方法に従って再建築費評点数を算出したところ,この評価の方法は,再建築費の算定方法として一般的な合理性があるということができる。また,評点1点当たりの価額1.1円は,家屋の資材費,労務費等の工事原価に含まれない設計監理費,一般管理費等負担額を反映するものとして,一般的な合理性に欠けるところはない。そして,鉄骨造り(骨格材の肉厚が4㎜を超えるもの)の店舗及び病院用建物について評価基準が定める経年減点補正率は,この種の家屋について通常の維持管理がされた場合の減価の手法として一般的な合理性を肯定することができる。
そうすると,伊達市長が本件建物について評価基準に従って決定した前記価格は,評価基準が定める評価の方法によっては再建築費を適切に算定することができない特別の事情又は評価基準が定める減点補正を超える減価を要する特別の事情の存しない限り,その適正な時価であると推認するのが相当である。」
最高裁はこのように、固定資産評価基準によって決定した価格は、「特別の事情」の存しない限り、「適正な時価」であると推認されると判示して、原審が採用していた不動産鑑定士による鑑定結果を排斥しました。
でも、固定資産税評価額が適正な時価だなんて、誰も思っていませんよね。
固定資産税評価額が適正な時価なのであれば、裁判所の競売も固定資産税評価額だけでやればいいですが、そんな実務はありません。
固定資産評価額が適正な時価なのであれば、遺産分割調停・審判では、固定資産税評価額だけでやればいいですが、そんな実務はありません。
固定資産税評価額が適正な時価なのであれば、世間の不動産取引も固定資産税評価額を目安にすればよいですが、そんな人はいません。
固定資産税評価額が適正な時価なのであれば、不動産鑑定士の正常価格の鑑定は無用なはずですが、そんなことはありません。
裁判官だって、固定資産評価額が適正な時価であるなどと思っていないでしょう。これは法律解釈の問題ではなく、事実の問題ですが、この点に関する裁判所の態度は欺瞞的であると私は考えています。
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