1 当事者のこと
相続の法律実務では、最初に裁判所の手続を利用せずに協議で解決することができるかを考えます。ある程度、相続人間のコミュニケーションが取れていて、際立った対立点がなければ、双方の意見を聞きながら、協議限りで着地できる可能性がありますが、協議だけで解決するケースというのは多くはありません(←専門職の立場からです。世間では協議で解決するケースが一番多いと思います。)。逆に、一人でも強烈なキャラクターの方がいたり、心情的な問題も含めて対立が深い場合には、最初から協議で解決することは諦めなければならない場合もあります。
相続における当事者である相続人は、典型的には、兄弟姉妹ということになります。亡くなった方の配偶者が存命でれあれば、配偶者も相続人になります。想像に難くないことですが、感覚的なこととして、両親が二人とも亡くなってから(兄弟姉妹だけになってから)、心情的なものも含めて対立が顕在化するケースが多いのではないかと思います。両親がともに亡くなった時点で、タガが外れるようなイメージです。
その次に典型的なパターンとして、2度以上結婚された方で、「前妻の子」と「後妻の子」が相続人になるケースがあります。後妻が存命であれば、後妻も相続人になります。このパターンは、一般の感覚では意外かもしれませんが、2番目に書こうかと思うほど、紛争の発生頻度は高い印象があります。
この場合は、相続でモメる以前の問題として、そもそも、どこのどなたか分からない、とか、うすうす知っている、程度の関係性しかないことが通常で、お互いに恐る恐る「連絡を取り合う」ところからのスタートになります。そもそもが疑心暗鬼になりがちな関係性なので、早い段階で専門職が関与することになることが多い(多く感じる)のだと思います。
2 相続財産のこと
相続財産のほうでは、まず自宅不動産があると、紛争になりがちです。単純なこととしては、不動産は、その価格が定まりにくいということがあります。そして、多くの場合、その自宅不動産に、相続人である兄弟姉妹のうちの誰かが住んでいる、という状況があります。
この場合、住んでいる相続人は、相続ですからといわれても、ではどうぞと不動産を売却することが簡単にはできないこともあります。このため、「住んでいる相続人が不動産を取得して、他の相続人に預貯金その他の相続財産を取得してもらったり、代償金を支払う。」という解決が可能かどうかを考えることになります。
相続財産がたくさんあるか、代償金を払えるなら、解決できそうですが、そうでなければ、どうするか、という問題になります。
以上は、亡くなった方が単独で不動産をお持ちの場合ですが、その変形として、不動産が子供の一人と共有になっているとか、底地は父名義で、建物は子名義の二世帯住宅など、共有が関わってくるものもよくあります。
相続人が住んでいる場所が離れているとか、相続財産である不動産が田舎にあるとか、距離が離れているケースも珍しくありませんが、最近では、裁判所の手続も含め、出張に行かなくてもできることは多いので、移動費用や日当だけでものすごく費用がかかるという怖さは減っていると思います。処分が必要な不動産が遠くにある場合でも、なんとかなる場合が多いです。
生命保険については、保険契約に基づく給付ですから、法律上は相続財産ではなく遺産分割の対象ではなく生前贈与や遺贈にも当たらない(特別受益ではない)のですが(但し相続税の課税の局面では無視できません。)、平成16年10月29日に最高裁の決定が出ています。これによると、相続人間の不公平の程度が著しいときは、特別受益のように、死亡保険金の全部又は一部を持ち戻しさせて相続分を決める、とされています。この最高裁の決定の基準は不明確で、予見可能性が低いので、意見の対立を引き起こしがちです(これは感覚ですが、おそらく裁判官によっても判断がバラツキがちな問題の一つではないかと思います。)。
3 会社があるとき
亡くなった方が事業をされていて会社がある場合は、会社の株式をどのように評価するかというところで意見の対立が起こりがちです。非上場会社の株式の評価は、不動産の評価より難しい(どれぐらいの価格がリアルところかを見極めるのが難しい。)ので、解決を遅れさせます。また、相続人のうちの誰かが会社の跡を事実上継いでいるとか、長年その事業に従事してきたということになると、その相続人としては、自分が相続財産の形成に寄与してきたんだ、と言いたい、という場合があり得ます。
そして、不動産に関しては、亡くなった方の個人名義の土地上に、会社名義の建物が建っているとか、共有の問題が生じると解決が難しくなることがあります。
さらに、株式の一部を、共同経営者や番頭さんみたいな立場の第三者が保有していたりすると、解決が難しくなる場合があります。もちろん、その共同経営者や番頭さんみたいな人のほうにも、相続が発生することもあります。
4 数次相続のこと 非共有を指向する
また、ぐんぐん収益を生み出して誰しもがその価値に注目するような事業でなければ(個人商店が法人成りしていた、ぐらいのことであれば)、逆に会社の株式に注目が及ばないままになるケースもあります。そうすると、二次相続が発生して、株式が細分化してしまうケースもあります。二次相続が発生すると、いわゆる「孫の代」の問題になって、関係者がいとこ同士とか、甥姪、叔父叔母という関係になってきます。関係者の人数が(一般的には)増える上に、人間関係は希薄になるので、解決を難しくする場合があります。
株主総会などを適切に実施していない会社は世上いくらでもありますが、突然、少数株主から、ちゃんと株主総会をやりなさい、やってくれ、配当して欲しい、株式を高価で買い取って欲しい、俺にも権利あるんかな、など、いろんなことを言われる、ということが起こり得ます。
数次相続の問題は、会社でなくても同じで、例えば、兄弟姉妹で始めたような事業や、兄弟姉妹で共有する不動産(もとは農地であった事業用の広大地など。)がある場合、兄弟姉妹が存命の間は、兄弟姉妹ですから、まあなんとかやっていけたとしても、世代を下ってゆくと、そういった人間関係は薄れてゆきますので、どこかで問題が起こるということがあります。広く捉えれば、そもそも「共有」という管理方法は、優れた管理方法ではないので、できるだけ、「共有」しない/遺産分割や相続を指向するのが、将来に禍根や禍根の種を残さないために望ましいと思います。
5 そのほか
外国人の場合とか、生前贈与(特別受益)とか、遺留分とか、認知症のかたの遺言とか、生前に誰かが勝手に親の財産を使い込んでいるとか、最近では確定拠出年金の処理といった問題が含まれるケース、時事的には空家の問題など、相続ではいろんな問題があります(この先は次第に各論的になってゆきます。)。