1 相続を想起するきっかけ
相続のことを相続人の立場から考えるのは、端的には親が死にそうみたいな局面になるわけですが、もちろん一般には、そんな急な話ばかりではなくて、ただ単に親が年取ってきたなあと感じたり、兄弟姉妹の多くが結婚して独立して子供(親にとっては孫)ができて、正月ぐらいしか会うことがなくなってきたり、あるいは親が病気になったりという機会もあるかもしれません。
家などの不動産があるときは、親が死んだ後その不動産をどうするのかといった関心が寄せられることもあると思います。不動産に関しては、その不動産に相続人のうちの誰かが住んでいるケースと、完全に空家になってしまうケースがあって、それぞれに課題があります。農地とか山林、収益物件など、非居住用不動産にも、それぞれに課題があります。他には、会社であれ個人であれ事業があるときは、これをどのように承継させるのか、させないのか、という課題もあります。
2 親の生活上困ること
以上は、親が死んで現に自分が相続する局面の話ですが、親の生前だと、親が認知症やその他の病気になって、例えば銀行にお金をおろしに行くのにも手助けがいる、というようなことになってくると、このまま認知症が進行して親が何もできなくなったら、どうしたらいいんだろうとういような気持ちになると思います。
教科書的に思いつく方法としては、成年後見(補助、保佐)がありますが、これらは、基本的に、いったん始まったら死ぬまで終わらない、子どもが後見人になれるとは限らず、全然知らない弁護士などが後見人なることがある、子どもが後見人になれても全然知らない弁護士などが後見監督人になることがある、裁判所に定期的に報告が必要、などといったことで、普通の感覚では不便だと思います。
端的には、親から通帳とカードを預かって暗証番号を教えてもらっておく、という方法が便宜です。但し、この場合には、他の相続人である兄弟姉妹などから、「勝手に親の財産を使っている」など、あらぬ疑いをかけられて、争いが発生するリスクがあります。入出金はきとんと記録して、領収証を残しておくのがよいです。実際、勝手に使ってしまうような人もいて、後で訴訟になることはあります。
そのほか、財産管理契約に任意後見契約をセットで締結するというのが一つの方法となります。介護関係の契約行為などが必要な場合には、便宜な場合があると思います。
3 遺言について
親に遺言を残してもらうときは、まず意思能力が問題になるので、認知症が進んでいるようなケースでは、意思能力に関する医師の診断なり、死亡後にあっては介護保険の認定票やらそれに添付されている医師の意見書など、意思能力があるよという記録を残したり集めたりしておくことが必要です。また、公正証書遺言をしようとするときは、公証役場で、自分の住所、氏名、生年月日、年齢ぐらいは言えないと、作成できない場合があります。
公正証書遺言でも自筆証書遺言でも、解釈に疑義のある遺言になってはいけませんし、また、意思能力があやしいときは、内容を簡単にするとか、遺言の作成状況を記録するかどうかなど工夫が必要な場合もあるので、専門職に相談することが推奨されます。遺言執行者は、子どもである自分に指定して欲しいということになるだろうと思いますが、状況次第では、遺言執行者を指定しないほうが推奨される場合もあります。
現在では、自筆証書遺言を法務局で保管するという制度があるので、それを利用することもできます。この場合は検認が不要です。自筆証書遺言は検認のときに全ての法定相続人に、法務局保管は法務局が遺言書情証明書の交付請求を受けたときに全ての法定相続人に遺言があることが通知されます。
以上のことから、公正証書遺言かつ遺言執行者の指定をしないでおけば(遺言執行者を指定しないでも遺言が執行できるようにしておけば=遺産の全部を特定財産承継遺言にしておけば)、遺言があることを他の相続人などに知られないで済むだろうと思います。
遺言があるかどうか分からないときは、公証役場で検索をかけることができます。また、法務局保管の自筆証書遺言でも検索をかけることができます。相続人の立場では、双方に検索をかけておくのが確実です。
子どもが親を連れてこられて遺言書作成の依頼をされる場合がありますが、依頼者は親ということになりますから、専門職は、親の考えを聞き取ろうとします。ですので、無理に親の意向とは異なる内容の遺言を作成させることはできません。
4 実際の相続について
現に親が死んで相続手続をしなければならないというときは、兄弟姉妹の仲がよくて、例えばですが、長男が取り仕切ってきれいに進められる場合もあると思います。ですが、兄弟姉妹の仲に、一人でも「変わったやつ」がいると、たちまち任意の協議は難しくなります。そうでなくても、不動産や株式の評価について意見が分かれたり、特別受益、寄与分その他の主張があれば、紛争になります。遺言がある場合でも、遺留分額を侵害していたりすると紛争になりますから、遺言があれば万全とも言い切れません。
遺言は特に自筆証書遺言ですと有効性自体が問題になることがあります。上記のように遺言があれば万全と言い切れませんし、逆に、一見無効そうな遺言でも、もしかすると生かす方法があるかもしれません。また、遺言の内容の解釈に疑義が生じることも珍しくありません。
こういった場合には、法的な評価の問題があることはもちろん、当事者同士では心情の問題から冷静な話し合いや判断ができなくなる場合も珍しくありませんので、専門職に依頼するしかないと思います。
紛争含みの局面だと、相続税の課税の可能性があるときは、弁護士と税理士が連携して対応を検討することになります。本来は、相続税の申告について相続人間の足並みが揃うのが望ましいのですが、そうでない場合でも、相続税には申告期限がありますから、いったん未分割の状態で申告をした上で、遺産分割が終わった後に更正請求をすることになります。
今どきだと、弁護士と税理士が一緒に関与することも普通のことなので、弁護士に相談して、「相続税のことは税理士さんに聞いてね。」として放置されることは少ないのではないかと思います。もちろん、もともと親や自分が使っている税理士さんがいれば、その税理士さんと弁護士とで取り組むこともあります。
どのような専門職を軸に置くかは局面次第かもしれませんが、だいたい弁護士を軸に据えておけば、税理士なり、司法書士なり、不動産屋さん(宅建業者)なり、その他の専門職(不動産鑑定士、土地家屋調査士、行政書士などでしょうか。)なり、濃淡あってもネットワークを持っていると思いますので、ワンストップに近い形で進めてもらえると思います。(「それは●●士に言ってね。」みたいな対応の専門職だと、それだけで悪い専門職だとは思いませんが、ご自分であれこれ動ないといけない局面が増えて面倒だと思います。)
5 終わり
以上、ありそうなことを思いつくままに書きました。網羅的でもなければ個別の論点を掘り下げたものでも全然ないです。