(承前)さらに前記東京高裁判決では、賃貸借契約の終了に伴う原状回復義務の範囲に関し、「その範囲は必ずしも一義的に明らかなものではなく、とりわけ本件におけるように営業用店舗建物の賃貸借契約にあっては、賃借人が自己の営業目的に適合するように改めて内、外装工事等を行うような例が多いため、字義どおり賃貸借契約締結時の原状に回復することが常に合理的であるとは限らず、賃貸人にとっても格別の意義がないことが多いのであるから、原状回復義務の履行に当たっては、賃借人としては、賃貸人との協議の結果と社会通念とに従って、賃貸人が新たな賃貸借契約を締結するについて障害が生じることがないようにすることを要し、かつ、そうすることをもって足りるものというべきである(前掲契約書には、賃借人は賃貸人の指示に従って原状回復義務を果たすべき旨の条項が含まれているが、その趣旨は、以上に説示したところと特に異なる意味を持つものではない。)。」としています。商業施設やオフィスの賃貸借契約であって一定程度以上の規模のものなどについては、工事区分、負担区分の他に原状回復の区分が設けられている例もありますが、実情としては、後テナントが決まっているのかいないのか、そのまま館全体の営業が終了して取り壊されるのかなど、局面にバリエーションがあり得ます。ですが、この裁判例は、どのような発想で解決を目指すべきであるのかについて示唆を与えてくれます。[2026/9/3]
賃貸借契約の終了に伴い賃借人が負うべき目的物の明渡義務(返還義務)と原状回復義務は必ずしも同じではありません。この点に関し参照可能な先例として、東京高等裁判所昭和60年7月25日判決(同裁判所昭和60年(ネ)第149号・250号)があります。これによると「賃貸借契約終了に伴う目的物の返還義務と原状回復義務とは本来必ずしも一致するものではないけれども」としたうえで、「賃貸人が新たな賃貸借契約を締結するのに妨げとなるような重大な原状回復義務の違背が賃借人にある場合には、これを目的物返還義務(明渡義務)の不履行と同視して、賃借人は賃貸借契約終了後十六日目から右のような原状回復義務履行済みに至るまで賃料相当額の損害金を賃貸人に支払わなければならないとするにあるものと解するのが相当である。したがって、右の程度に至らない程度の軽微な原状回復義務の違背があるに過ぎない場合においては、賃貸人は、それによって被った損害の賠償を請求し又はその代替履行のために要した費用の償還を請求することができるのは格別、当然に賃料相当額の損害金を賃借人に請求することができるものではないといわなければならない。」としています。[2026/8/17]
心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引きというものがあります。これによると、職場復帰可能との主治医診断書に関し、その内容に「労働者や家族の希望が含まれている場合もある。」とされています。[2026/1/25]
最判S51.7.8判タ340-157では「使用者が、その事業の執行につきなされた被用者の加害行為により、直接損害を被り又は使用者としての損害賠償責任を負担したことに基づき損害を被つた場合には、使用者は、その事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防若しくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対し右損害の賠償又は求償の請求をすることができるものと解すべきである。」とされています。これを敷衍したものとして最判R2.2.28判タ1476-60があり、そこでは「使用者が第三者に対して使用者責任に基づく損害賠償義務を履行した場合には,使用者は,その事業の性格,規模,施設の状況,被用者の業務の内容,労働条件,勤務態度,加害行為の態様,加害行為の予防又は損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし,損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において,被用者に対して求償することができる」とされています。会社法362条4項6号が内部統制システムの整備を会社に求め、その内容を多少具体的にしたものが会社法施行規則100条。法令適合性については1項4号。[2026/01/16]
不動産鑑定評価基準では「借家権の取引慣行がある場合における借家権の鑑定評価額は、当事者間の個別的事情を考慮して求めた比準価格を標準とし、自用の建物及びその敷地の価格から貸家及びその敷地の価格を控除し、所要の調整を行って得た価格を比較考量して決定するものとする。」とあります。しかしながら、「借家権の取引慣行がある」地域は存在するでしょうか。また「借家権の取引慣行」があったとした場合でも、借家権の譲渡禁止特約が付されている賃貸借契約の借家権の価格をどのように考えるべきでしょうか。そして、不動産鑑定評価基準では、借家権の取引慣行がない場合における借家権の鑑定評価方法に言及がありません。[2026/01/15]
相続というのが家族の生活保障(扶養)なり潜在的持分の顕在化と説明するとしても、所有権絶対の原則を基本原理の一つに数える近代的な民法において、遺言という終意処分を認める場合には、遺留分は所有権絶対の原則に対する制約となります。遺留分においてその制約を正当化する実質的理由は果たして存在するのか、という問題があります。遺留分の趣旨が家族の生活保障(扶養)であるとするなら生活保障(扶養)のために必要な範囲で足り、遺産が多ければ遺産に対する遺留分の割合は少なくなり、遺産が少なければ遺産に対する遺留分の割合は多くなるべきもののように感じられます。このため、金額の多寡を問わず遺産全体に対する割合によって算定する方式の合理性が問われなければなりません。潜在的持分の顕在化というのは、親から子へ財産が引き継がれるという直観には合っており了解可能ですが、近代的な民法においてそのような価値がどれほど法的に保護されなければならいのかとも思います。潜在的持分という用語は家産の承継というような前近代的な価値の残滓と感じられます。但しそれを全部否定するというのも直観的には勇気がいります。[2026/01/10]
遺留分侵害額請求権は遺留分権利者が相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知ったときから1年間行使しないときは時効によって消滅します(民法1048条)。相続開始のときから10年を経過したときも同様です(民法1048条)。相続の開始を知っただけではこの期間は進行せず、この期間が進行を始めるためには遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことも知らなければなりません。遺贈(この文脈では遺贈に特定財産承継遺言を含みます。民法1047条1項)の場合では、遺言執行者は遺言の内容を相続人に通知しなければなりませんから(民法1007条2項)、この遺言執行者からの通知の到達時期が、遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知ったときにあたることに通常なろうかと思います。自筆証書遺言保管制度の下でも一定の事実が生じると相続人に保管の事実が通知されます。保管制度の利用のない自筆証書遺言は検認を要しますからそのときに相続人は遺言の内容を知ることができます。公正証書遺言で遺言執行者を指定しなければ、他の相続人に遺言内容を知られないで済む可能性がありますが、遺留分の時効期間(1年のほう)は進行を開始しないことになります。遺言執行者が任務を懈怠して相続人に遺言の内容を通知しなかったときも、遺留分の時効期間(1年のほう)は進行を開始しないことになります。[2026/01/09]

