1 平均賃金
平均賃金(労働基準法(以下「法」。)12条1項)は、
①解雇予告手当(法20条1項)
②休業手当(法26条)
③年次有給休暇の賃金(法39条9項)
④休業補償(法76条1項)
⑤減給の制裁の限度額(法91条)
などの計算の基礎となる賃金です。最低賃金を画する賃金や、残業代の計算の基礎となる賃金とは別のものです。多くのかたは、解雇予告手当のところで接する機会が多いと思います。
2 平均賃金の計算方法
平均賃金の計算方法は、算定すべき事由の発生した日(解雇の告知日や休業手当を支給しないといけない日)の前、3か月間に支払った賃金の総額を、その期間(3か月間)の総日数で割って求めます。通常は締日があるでしょうから、その場合には、直前の締日、その前月の締日、更にその前月の締日にかかる3か月間で考えます(法12条2項)。
A:(過去3か月に支払った賃金の総額)÷(その3か月の総日数)
最低賃金とか残業代の基礎となる賃金ですと所定労働時間で除して時給を求めますが、平均賃金では、総日数で割って日給を求めます。
但し、日給、時給、歩合給など一定の場合には、平均賃金が低くなりすぎることを防止するための一定の例外があります。それは、次の計算式です。
B:(過去3か月に支払った賃金の総額)÷(その3か月間の労働日数)×0.6
平均賃金の額は、A又はBのうち高額の方ほう、ということになります。月給制で普通に毎日働いている人でしたら、Aのほうが高額になります。
3 平均賃金の計算から除外するもの
「賃金」については、法の定義では「賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのもの」ということになっていますが(法11条)、平均賃金の計算上は、次のものを除外することができます。
- 臨時に支払われた賃金(法12条4項)
- 3か月を超える期間ごとに支払われる賃金(法12条4項)(ボーナス)
- 通貨以外のもので支払われた賃金(法12条4項)
賃金が通貨以外のもので支払われることは通常ないので、計算から除外できるのは、上の2つ、という理解でよいと思います。時間外手当その他の手当は除外しません。このことは、就業規則上「基準内賃金」「基準外賃金」と分類されていても同じです。平均賃金の計算にあたって、それが就業規則上「基準外賃金」とされていても、残業代や、ナントナ手当など、上記の例外に当たらない手当などを除外することはできません。こういうのを計算から抜いていると「どの除外項目にあたるのか!」とお叱りを受けることがあります。
平均賃金の算定方法の基本的なことについては、ここまでです(雇入直後や日雇いの例など特殊な話がさらにあります。)。
4 ついでの話
ところで、有給休暇に関して、就業規則で「有給取得の場合は、賃金控除(欠勤控除)をしないものとする。」とだけ定められている例が見受けられます。この場合には、有給休暇の取得は、賃金の計算上は、何も手順が発生しないことになります。法136条は「使用者は、第三十九条第一項から第四項までの規定による有給休暇を取得した労働者に対して、賃金の減額その他不利益な取扱いをしないようにしなければならない。」と定めていますので、このために欠勤控除しない(通常の出勤をしたものとして取り扱う)という決め方が出てくるのだと思います(昭和27年9月20日基発675号)。これはこれで問題ありません。
ですが、法39条9項では、有給休暇について「平均賃金」「所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金」「健康保険法に定める標準報酬日額に相当する金額」のいずれかを支払えと言っていて、この条項からは、欠勤控除をすることが当然の前提になっているように読めます(欠勤控除しない上に、平均賃金を払うと、払い過ぎですので。)。
このため、有給休暇の取得に関して、欠勤控除をした上で、平均賃金を支給するという取り扱いになっている例もあります。欠勤控除については、月給を当月の所定労働日数で除して金額を求める例が多いと思いますので、このため、就業規則の仕掛けかたによっては、「控除する賃金」と、「支給する賃金」が合わない(「支給する賃金」のほうがいくらか安い。)、ということが起こり得ます(法令に従っている限りは、合わなくても違法ではないと思います。)。