1 契約不適合責任の適用関係
契約不適合責任(民法566条、宅建業法40条)については、その適用関係がケースによって異なります。ケースというのは、売主・買主が宅建業者(以下単に「宅建」と書きます。)かそうでないか、というところです。
契約前、契約後を問わず、どうなりますか、これでいいですかという質問も頂きます。私も、その都度、どうだったかな、と考えたりしますので、とりあえず結論だけざっとおさらいしておこうと思います。
登場するのは、次の4とおりです。
①個人(非宅建)
②個人(宅建)
③会社(非宅建)
④会社(宅建)
売主・買主の関係は、次の16通りです(Ⓝ→ⓝは、売主がⓃ、買主がⓝという意味です。)。
①→①、①→②、①→③、①→④
②→①、②→②、②→③、②→④
③→①、③→②、③→③、③→④
④→①、④→②、④→③、④→④
パターンは、この16通りで全てなので、この際全部書きます。
※「会社」と書いているのは、一般社団法人とか公益財団法人とかはいちおう除きます。「個人(非宅建)」と書いているのは、商売(宅建業を含めこれに限られない。)をされていない個人です。また、消費者契約法、品確法のことは今回言及してません。こういった問題は、以下では、大づかみのために無視しますが、こういった問題がありうることは分かっておいて頂ければと思います。
2 「①→① ①→② ①→③ ①→④ ③→① ③→②」
これは、売主が非宅建の場合です。
この場合は、契約不適合責任全部免除の特約をすることが可能です。
宅建業法40条の適用はありません。
3 「②→① ②→③ ④→①」
これは、売主が宅建で、買主が非宅建の場合です。
この場合は、宅建業法40条の適用があります。
契約不適合責任全部免除の特約は無効となります。
有効な特約があるときは、その特約によります。
4 「②→② ②→④ ④→②」
これは、売主が宅建で、買主も宅建の場合です。
この場合は、宅建業法78条2項によって、同法40条の適用が排除されます。この結果、契約不適合責任全部免除の特約をすることが可能です。
5 「③→③ ③→④」
これは、売主が会社(非宅建)で、かつ、買主も会社(非宅建・宅建)の場合です。
売主が非宅建ですから、2.と同じで、契約不適合責任免除の特約をすることが可能です。
宅建業法40条の適用はありません。
契約不適合責任について特約がない場合は、商法526条の適用があります。
6 「④→③」
これは、売主が会社(宅建)で、かつ、買主が会社(非宅建)の場合です。
この場合は、3.と同じで、宅建業法40条の適用があります。
契約不適合責任全部免除の特約は無効となります。
有効な特約があるときは、その特約によります。
この上で、特約がないとき、特約があっても無効であるときは、商法526条の適用があります。
7 「④→④」
これは、売主が会社(宅建)で、かつ、買主が会社(宅建)の場合です。
これは、宅建宅建ですから、4.と同じで、宅建業法78条2項によって、同法40条の適用が排除されます。
この結果、契約不適合責任全部免除の特約をすることが可能です。
契約不適合責任について特約がない場合は、商法526条の適用があります。
8 結論
宅建業者は2年は責任を免れない、といったふわっとした理解だと、着地を誤るかもしれません。契約不適合責任をどう組むのが最適か、よく考えてみる必要があります。特に、商法526条が登場するところは危険です。
9 引渡しの日から二年以上となる特約をする場合を除き
宅建業法40条の「引渡しの日から二年以上となる特約をする場合を除き」無効ということの意味です。
・「引渡日から2年間責任を負う」特約は、有効です。
・「引渡日から2年未満」となる特約は、無効です。
・「契約不適合責任免除」とする特約は、無効です。
・何の特約をしない場合、及び、特約があるが無効である場合で、民法566条適用の場合は、不適合を知ったときから1年です。商法26条適用の場合は、引渡日から6ヶ月です。
実務的には、責任の期間は「引渡日からの期間」に関心が寄せられます。これはおそらく「知ったときから」にすると、①「引渡し」から10年(民法166条1項2号)、②「不適合を知ったとき」から1年(民法566条)、③不適合を知ったときから1年以内に通知したときは「不適合を知ったとき」から5年(民法166条1項1号)のいずれか早い時期まで責任を負うことになるところ、このように「知ったとき」という不確定な時期に振り回されることを忌避する態度であって了解可能です。
10 法令
【民法】
(債権等の消滅時効)
第百六十六条 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。
二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。
(目的物の種類又は品質に関する担保責任の期間の制限)
第五百六十六条 売主が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合において、買主がその不適合を知った時から一年以内にその旨を売主に通知しないときは、買主は、その不適合を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。ただし、売主が引渡しの時にその不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったときは、この限りでない。
【宅建業法】
(担保責任についての特約の制限)
第四十条 宅地建物取引業者は、自ら売主となる宅地又は建物の売買契約において、その目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない場合におけるその不適合を担保すべき責任に関し、民法(明治二十九年法律第八十九号)第五百六十六条に規定する期間についてその目的物の引渡しの日から二年以上となる特約をする場合を除き、同条に規定するものより買主に不利となる特約をしてはならない。
2 前項の規定に反する特約は、無効とする。
(適用の除外)
第七十八条 この法律の規定は、国及び地方公共団体には、適用しない。
2 第三十三条の二及び第三十七条の二から第四十三条までの規定は、宅地建物取引業者相互間の取引については、適用しない。
【商法】
(買主による目的物の検査及び通知)
第五百二十六条 商人間の売買において、買主は、その売買の目的物を受領したときは、遅滞なく、その物を検査しなければならない。
2 前項に規定する場合において、買主は、同項の規定による検査により売買の目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないことを発見したときは、直ちに売主に対してその旨の通知を発しなければ、その不適合を理由とする履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。売買の目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しないことを直ちに発見することができない場合において、買主が六箇月以内にその不適合を発見したときも、同様とする。
3 前項の規定は、売買の目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないことにつき売主が悪意であった場合には、適用しない。