1 ワンルームマンション投資
ワンルームマンション投資というのがあります。これはざっくりいうと、利回りの低い物件を、あたかもメリットのある取引であるかのようなセールストークをもって、リテラシーの低い人に、金融機関の住宅ローンを借りさせて取得させる、というように言えるかなと考えています。この投稿は、ワンルームマンション投資に対してネガティブな評価をする内容のものです。詐欺か、少なくとも詐欺的といってよいのではないかと考えています。
2 収入
ワンルームマンション投資の収入は、もちろん賃料です。例えば、2500万円で物件を購入して年間120万円の賃料を得られるとすると、表面利回りは5%ということになります。しかしワンルームマンション投資は不動産投資ですから、常時賃料が得られることは保証されていません。入居者がいなければ賃料は得られません。これを空室損といいます。年間120万円の賃料には、空室損のリスクがあります。これを回避するために、業者からサブリース(賃料保証)を提案されることがあります。これは空室損のリスクを回避することができる一方で、業者が空室損を負担することになりますから、その分、設定される賃料は、直接入居者に賃貸する場合に比べて割安になります。また、サブリースを利用した賃料保証という条件は、保証期間が永遠ということはありませんので、サブリース業者がやめたいと思えば、期間満了で更新されなかったり中途解約をされる場合があります。私の実務上の体験としては、入居者が退去するのと同時にサブリースも解約してサブリース業者も賃貸借関係から離脱してしまうというケースがありました。あとは知りませんという感じです。このほか、特に新築の物件に顕著なことですが、不動産は新築時が最も価値が高く、このため、新築時が最も高い賃料が設定でき、空室損も発生しにくいので、新築時にサブリースをつけることは、うがった見方をすれば、一番おいしいところをサブリース業者に持って行かれるというようにも見えます。サブリース業者は、うまみがなくなれば賃料減額請求を行ったりもするでしょう。そうすると、新築から期間が経過して賃料も下がり空室リスクも上がってくるころに、そのように価値の下がった物件を自分で管理しなければならなくなります。このような状況になると、当初想定された収入を安定的に得られなくなって住宅ローンの支払いが家計を圧迫したり、管理してくれる人がいなくて途方にくれることがあるかもしれません。
3 経費
先に2500万円で物件を購入して年間120万円の賃料を得られるケースでは表面利回りが5%だと書きましたが、この120万円は、まるまる手元に残る金額ではありません。不動産投資では、典型的には、ここから、住宅ローン金利、区分建物の管理会社に支払う管理費・修繕積立金、固定資産税・都市計画税、火災保険料などの支払いが発生します。サブリースでない物件に関しては賃貸の管理業務を業者に委託する体裁が取られ、その業者が賃料を収納代行して手数料を引いてオーナーに送金されます。こういった手数料も経費になります。また賃貸借に出すということの帰結として、オーナー資産に不具合があれば修繕費が発生することがあります。そして、年間120万円の賃料から、これらを経費を差し引いた残額が、あなたの手取りということになり、この手取りを物件の取得費用で除した金額が実質利回りとなります(会計上は実質利回り(NOI)は、支払金利や修繕費(資本的支出)を費用に計上しないなどの準則がありますので、「利回り」と言われたときには、何までが考慮されて計算された利回りであるのかを、いちいちよく確認する必要があります。)。税務的には税務上控除できる経費(ここでは減価償却費などを含みます。)を控除してなお残りがあれば、所得税が課税されます。
4 不動産投資
上記の2収入から3経費を引いたものが物件保有中の損益ということになります。不動産投資では、ざっくりいうと、①物件保有中に得られる利益と②売却価格の合計から、③取得価格を引いたものがトータルの利益と考えます(利益が得られる程度が、その物件の実力です。)。ですから、不動産を購入しようとする場合には、こういった目線で物事を判断しなければなりませんし、物件を販売しようとする不動産業者は、このように収益できるからこの物件は購入を推奨される、お得だ、というようなセールストークをすることになります。一般的なこととしていうなら、建物は日々古くなってゆきますから、顕著なインフレなどがない限り、②売却価格は③取得価格より低いです。
こういったことを考える気はないけど不動産投資はしたいということであれば、ワンルームマンション投資で物件を買うより、上場REITなどの有価証券化されたものを購入するほうが流動性も高いし小口でも買えるのでよいかもしれません。ワンルームマンション投資は、こういった判断ができない人を狙っているといえるかもしれません。
5 ワンルームマンション投資の典型的なセールストーク
ワンルームマンション投資の典型的なセールストークの一つに節税になるということがありますが、これは、不動産の損益がマイナスになると、これを給与所得と通算して所得税がいくらか安くなるということです。ですが、物件購入の際の諸経費(登記費用、仲介手数料など)や不動産取得税、減価償却費を考えれば、確かに節税になる局面はあり得ようかと思いますが、いつまでも節税ができる、節税額が大きいということだとすると、それは不良な物件をつかまされているという評価にもなります。物件の実力の評価との対照では、節税は周辺的なことになりますので、節税を前面に押し出すようなセールストークは、物件の実力を説明していない、物件の実力以外のところに着目させようとしているという意味において、欺瞞的なセールストークと言えると思います。確定申告を代行してくれる、というセールストークもあります。
また、ワンルームマンション投資は保険だというセールストークがあるようです。これは団信のことを言っている場合と、月額のマイナスのキャッシュフローをもって保険料として物件を取得できることを保険給付になぞらえて説明される場合があるようです。
団信については、まあそうですねという話ではありますが、途中で死ぬことを前提として生きているわけではありませんし、ワンルームマンション投資のターゲットになっているのは主に20歳代、30歳代ぐらいの未婚の若い方であるとすると、こういったターゲット層にとって、団信のメリットは本来それほど顕著ではないはずです。自用の住宅ローンでも団信はつきますので、特にセールスポイントにするほどのメリットは感じないのが通常なのではないかと思います。このことは、遺産として残せるとか、相続税の節税になる、みたいなセールストークについても同じように言えると思います。
後者の説明については、物件の取得は代金支払いの対価であって、月額のマイナスのキャッシュフローだけの対価ではないので、対価性のないものを対価性あるかのように説明している点で、説明として十分正確ではなく、むしろ毎月の支払いを保険料のように思わせて安心して支払いさせるための欺瞞的な説明として機能しているように思われます。年金代わりという説明も同じです。年金といわれるものの対価は物件の取得費用であって、毎月のマイナスのキャッシュフローだけではありません。
元手がなくても手軽に投資が始められるというのも謳い文句になっているようですが、知識もないのにいきなり多額のローンを抱えて不動産の現物投資に手を出すのは常識的な感覚として危険です。そもそも、電話などでいきなり知らない人が不動産を買いませんかと言ってくる時点で怪しいと思っておいた方がよいでしょう。知人・友人からの紹介でも同じです。知らない人が藪から棒にあなたに儲け話を持ってくることなんてないのです。
以上のようにワンルームマンション投資のセールストークは、物件の実力を率直にアピールするものではなく、不動産投資の全容のうちの一部分だけを切り取ってデフォルメしてそれが有利なことであるように説得し、同時に物件の実力を積極的には説明しないまま販売しようとするものであって、信義にもとる欺瞞的な内容である場合が多いのではないかと推察されます。少なくとも取得しようとする人の資産形成に真摯に貢献しようとするもののようには感じられません。
6 次々販売
ここまでで、ワンルームマンションの販売業者、サブリース業者、物件の管理を受託する業者、区分建物の管理会社といった人があることを示してきましたが、こういったワンルームマンション投資の周辺にいる業者は横のつながりを持っている場合があります(これは控え目に表現しています。)。このため、物件を1件購入すると、同じ業者や周辺の業者が次々に物件の購入をあなたに提案してきます。そうですかと言って買っていると、金融機関からローンが出なくなるまで買い続けさせられることになります。ある金融機関で借入ができなくなると、ワンルームマンション業者は、借り入れ条件の悪い(金利が高い)他の金融機関を連れてきます。業者と金融機関には提携関係があるのです。
7 もうやめたい?
3では経費について説明しましたが、経費である住宅ローンの金利だけではなく、実際には住宅ローンの元金も返済しなければなりません。これは当たり前のことですが元利均等返済の場合でも元金均等返済の場合でも同じです。ですから、毎月の家賃から住宅ローンと管理費・修繕積立金を支払ってなおマイナスが出る(持ち出しが出る)ということも珍しいことではありません。そうすると、目先で家計のために支出することができるはずの予算がその分減りますから、どこかで嫌気がさすかもしれません。あるいは、空室損が現実化したり、サブリース業者が賃料を値下げしたりしても、住宅ローンや管理費・修繕積立金の支払いは猶予されませんから、支払が次第に増えてゆくかもしれません。2件以上買わされているといっそうそのリスクは高まります。
また、物件の管理についても、例えば地方に住んでいる人が首都圏の物件を購入した場合などでは、管理業者任せになってしまいます。このため、退去者が出た場合に原状回復の見積もりは本当にきちんとやってくれているのか、新たな入居者の募集をきちんとやってくれているのか、はなはだ心許ない状況に置かれます。管理業者を変えようとすると、管理委託契約に高額な違約金が必要となる条項が入っていたりして、オーナーからの解約の障害になる場合があります。
だったらもう手放そうという判断をした場合、入居者を退去させて空室で売却しようとしてもサブリース業者は、はいそうですかといって部屋を明け渡してくれることは通常ありません。また、上記のとおり管理委託契約の解消に違約金が設定されていて不本意なロスを生じることがあります。区分建物の管理会社に物件状況調査報告書を請求しても、通常の感覚より高額の手数料を支払わされることもあります。また、4で説明したように、②売却価格は、③取得価格より通常低額です。特にワンルームマンション投資用の新築マンションでは、初期減価の程度が大きく(あるいは物件のスペックに対して高額で販売されていると言ってもよいかもしれません。)、売却しても住宅ローンの全額を返済できない場合が普通にあります。この場合には、住宅ローンの不足額を一括返済できるのでなければ(=追い銭を積むのでなければ)、金融機関は抵当権を抹消してくれません(=売れません。)。
このへんまで来ると、八方塞がり感も出てきて精神的にもしんどくなってくると思います。ここで局面を変えようとするなら思い切ったアクションが必要になる場合があります。そもそも住宅ローンの支払いをどうするのかといったところから課題になりますので、弁護士介入を検討する必要があります。
8 物件を売る?
さて嫌気がさして物件を売却したいと考える場合、最初に思いつくのは、販売の営業をかけてきたもとのワンルームマンション業者に対して買戻しや転売の相談をすることになります。ですが、住宅ローンの残額の全額を支払うことができるだけの売却価格がつかなければ、住宅ローンの不足額をどこかから調達してこなければなりません。嫌気がさしてきて手放したいのに追い銭を積まなければならないことは、全く納得感に欠けるかもしれません。ですがそれができなければ売却はできません。もとのワンルームマンション業者が買い戻しに応じ、しかもその代金で住宅ローンを完済できるというのは、おそらく希少な条件なので、そのような提案があれば、その条件で処分してしまうのがよいと思います。但し、ワンルームマンション業者は、物件を安く買ってこれを再びワンルームマンション投資の商品として販売し、これを第三者のためにする契約(直接移転取引)で決済させて仲介手数料の法定上限を超える利益を得ようとするでしょうから、あなたが売却することによって新たな被害者を生んでいるかもしれません。
一般の、例えば知り合いである不動産屋さんとか知り合いから紹介を受けた不動産屋さんを介して売却しようとする場合でも同じです。サブリースやら貸主に通常より不利な違約金条項のついた管理委託契約があるために、普通には売れない場合があります。
9 ローンの支払いを止める
ローンの支払いを止めると、ほどなくしてローンについて期限の利益を喪失して、ローンについて即時全額の返済義務を生じることになります。そのままにしていると、一般的には競売が申し立てられて、物件は競売の手続で処分されることになります。競売で売却されると、売却代金が残ローンを上回れば残ローンを完済して終わりです。売却代金が残ローンを下回れば、不足額を支払う必要があります。競売で売却できなければ、自分の手元に残ります。不足額を支払えないという場合には、自己破産を考えることになります。ローンの支払いを止めると、局面としては、物件に入居者があれば賃料は毎月入ってくることになりますから、賃料が貯まってゆくことになります。これを貯めておけば、残ローンの支払いに充当することができるかもしれませんし、状況次第で破産を考えるときは、破産の費用に使えるかもしれません。
私が体験したケースとして、住宅ローンの支払いを止めると、金融機関から連絡があって、物件を持ち込んだ不動産業者に残ローンの額で買わせる、ということを提案してくる例があります。この場合は、残ローンはなくなる形で物件を手放すことができますので、不満もありますが、売却に乗っかることはセーフティーな手段ということになると思います。このあたりの状況からも、業者と金融機関の提携関係がうかがわれます。
10 おわりに
以上のように、ワンルームマンション投資は、スペックに合わない高額で物件をつかまされるような構造があるように見えますから、手を出さないのが正解だと思います。また、スペックに合わない高額で物件をつかまされるそのことよりもいっそう問題であるのは、ワンルームマンション投資の周辺にいる業者(販売業者、サブリース業者、管理業者)に信用がおけないという点にあります。悪い評判が立ったら簡単に商号変更したりもします。こういったワンルームマンション投資を取り巻いている業者たちこそが、ワンルームマンションの価値を毀損しているように感じます。今回は言及していませんが、建築業者も「ワンルームマンション投資取り巻き業者ネットワーク」に入っていることもあるでしょう。
ワンルームマンション投資には基本的には近寄らないのがよいです。手を出してしまった後、うまくまわらなくなりだしても、そこから離脱することは容易ではありません。きれいに離脱することは通常困難で、精神的にも、金銭面でも、かなり不快な思いをすることになります。
途中で、ワンルームマンション投資のターゲットが20歳代、30歳代ぐらいの未婚の若者というようなことを書きましたが、ワンルームマンション投資の営業をかけてくる人たちも同じような世代の人たちのように感じています。話しぶりや物腰は別に乱暴な連中ではなくて、むしろ、感じのいい若者だったりします。但し、上司から指示されたなりに動いているだけで、自分で考えて行動している印象は希薄です(接したときの印象は、悪い感じはしないけど、聡明な感じもしない。)。
ですから、ワンルームマンション投資の現場は、若者同士で騙し合っているようにも見えて不幸な感じがします。こういった営業をしている人に、宅建業やるのに、いつまでもこんな商売をしていてはいけないよ、と言ったことがありますが、苦笑いしていました。彼らも分かっているのです。
現物の不動産投資をしてもよい程度のリテラシーを身につける前に、ワンルームマンション投資で損をさせられない(不用意に手を出して買ってしまわない)リテラシーをまず身につけることが必要です。そのワンルームマンション、本当にあなたの役に立ちますか?
11 追記
最近、逆ザヤを説明せずに不動産を販売した行為が不法行為にあたるという裁判例の記事に接しました。これもワンルームマンション投資の例で(だと思う。)、サブリースの例です。逆ザヤで販売するのは、賃借条件をよく見せて物件を高く売ろうとしているわけですから、それはダメですよと。法的な問題としては、この裁判例がいうようにエンド賃料を説明することが、常に信義則上説明義務があるとまで言えるかは断言しにくいところですが、全体として欺瞞的な売り方に見えるようなときはNGですよということでしょう。(信義則違反なら、契約責任だと私は考えるのですが、責任の原因は不法行為とされているようです。)
結論はそのとおりかもしれませんねというところですが、こういう販売方法自体からも、ワンルームマンション投資に携わる業者の程度の悪さがうかがわれます。彼らは投資家のために誠実ではなく、彼ら自身がワンルームマンションの価値を毀損しているのです。またこの裁判例の事例のように意図的に逆ザヤ状態を作出することが封じられるとしても、他にもレントロールをよく見せる方法はありますから、よくお気をつけになってください。
ワンルームマンション投資では、購入者は、ワンルームマンション業者が銀行からお金を引き出すための結節点として利用されているだけのように見えるのです。プリンシパルの利益を顧みないエージェントですね。